ばいきんまんの悲哀

 

ばいきんまんは、他人を困らせることに愉悦を感じるという悪党である。希代のワルと言っても過言ではない。「卑怯はオレさまの得意技」というセリフが彼の性質を端的に表している。「俺たちゃ裸がユニホーム」という歌詞を連想せずにはいられない。アパッチ野球軍ならぬバッチイ菌類軍である。やや強引だろうか。しかし、勝負事には強引さが必要である。野球の試合に勝つためには、相手バッターのインコースを強気に攻めなければならない。外角一辺倒でしのげるほどプロは甘くないのだ。

 

世の中には、ばいきんまんに対して「暇を持て余しているドラ息子」というイメージを持っている人も多いだろう。暇を持て余していることは事実なのだが、ああ見えて、実はかなりの努力家なのである。宿敵であるアンパンマンを打ち滅ぼすために、日夜トレーニングを積んでいることはあまり知られていない。「いくらトレーニングを積んだところで、アンパンマンに勝てないのでは意味がない。賽の河原で石を積むようなものだ。アンパンマンに本気で勝ちたいのであれば、番組のプロデューサーに大金を積んでプロットを改変してもらうのが手っ取り早いだろ」という意見もあるかもしれない。達見である。

 

ばいきんまんも「汚い手口」を使いたいのはやまやまなのだが、彼は二次元の世界に棲んでいるので、三次元の世界に棲んでいるプロデューサーに対して働きかけることはできないのである。次元の壁というのは、かくも残酷なものなのだ。ばいきんまんには、「次元の壁」を見つめ続けることしかできない。まるで達磨大師である(マグマ大使ではない)。達磨大師は、壁に向かって9年間座禅を組んだことで悟りを開いたと言われている。なので、ばいきんまん達磨大師に倣って座禅を組めば、何らかのものが開くかもしれない。社会の窓とか。

 

そんなばいきんまんにも、かわいいところはある。ばいきんまんは女好きなので、好みのタイプの女性の前では、ほとんど悪事を行わない。カッコつけてるのだ。また、アンパンマンと同様に、ばいきんまんは極度のあがり症である。アンパンマンは顔の半分が赤いため、たとえ赤面してもあまり目立たないが、ばいきんまんはその限りではない。真っ黒な顔に赤みが差すので、かなり目立ってしまう。まるで、暗闇に浮かぶ火の玉のようだ。ごく少数だが、赤面しているばいきんまんを好ましく思う女性もいるらしい。気が違っているとしか思えない。蓼食う虫も好き好きである。